ナイフ使いの殺し屋【蝉】

グラスホッパーを劇場で見たのは一度きりだった。Blu-rayを購入したのがゴールデンウィークなのもあって繰り返し見ている。劇場で見たあとの感想、細かいことは書いていないけれど、「ピンクとグレー」のことを書いたときに少しだけ触れた。

グラスホッパー」、個人的には「映画はまあそれなりだったけど蝉はすっっごくよかった」という感想を抱いていて、作品のなかの「いち人物を演じた彼」に対しての「良かった」比重がかなり大きかった。

アイドルと俳優 - あいはめぐる

そのときは本当にこうして書いた通りの感想だった。やまだくんが演じた蝉のシーンを何度も見たいのと、特典映像のメイキング、舞台挨拶、そういう部分見たさに買ったようなもので、映画が面白かったから買ったとは言えない。でも繰り返し見るうちに、映画館で見たときとは異なる感想を抱くようになった。面白いんだ。いやーこの映画は見応えがあるなと。何度も見て色んなところに注目できるのが楽しいし面白い。

さて、感想を書き連ねるつもりだけれど、原作は未読です。あくまで映画を見ての感想であることご了承ください。

 

私が好きな点、1つ目はセットや美術。象徴的なシーンである渋谷のスクランブル交差点では現地ロケをせず、千葉でオープンセットを建てた心意気が素敵だ。それから鯨が暮らすキャンピングカー、岩西の事務所、蝉の部屋などの内装、それぞれに特徴があり、ごちゃごちゃしている部分に生活感や彼らの内面が感じられ、細かく見ていくと本当に楽しい。監督や美術さんのこだわりも見える。キャンピングカーは狭い空間に色々と詰め込まれていて、制限ある中で置かれている緑が映えていてきれいだなと思った。

やはり細かく書きたいのが、最初に蝉が仕事をするアジト風の建物内について! ワンカットで撮影するのに合わせて壁面のイラストにも流れを感じさせるものを、と監督がオーダーしたとのこと。映画館では全くそれどころではなかったのでようやくちゃんと見ることができ、なるほど~蝉のアクションを引き立てているな~とホントにわかってんのかよと自分でも思いながらまじまじと見た。この楽しさが醍醐味だ~本当は映画館で何回も見たかったけどね!笑

蝉が軽やかに飛び乗るステージの上手袖には白い柱があり、それと繋がるように壁面イラストにも同じ柱が描かれている。イラストの方は下手に向かって少しずつ転がっていく流れで、蝉が1人ずつ殺していく仕事ぶりに(見てる自分が)入り込んでいく・惹き込まれる心情に綺麗にハマる。蝉のイメージカラーになってる黄色が、この部屋のいたるところに置かれているのがまたいい。舞台上で寺原息子を振り返るところがすごく好き!!! 画面の端で黄色がしゅるると下に落ちていくのも綺麗だ。血に染まった蝉の狂気がとても美しい。

この、蝉の最初のシーンはメイキングでリハ中の様子などなど収録されているのだけど、やまだくんの演技はもちろん、アクションの素早さ、そして華麗さは本当に素晴らしい。無駄な動きのないアクションは「ナイフ使いの殺し屋・蝉」を体現している。本編もメイキングもどっちも最高でこのシーンこそ何度見ても楽しめる、惚れ惚れできる箇所。アクションの確認が終わって「ふーっ」と息を吐くところ、派手なセット破壊シーンに血まみれのレインコートを着て笑っているところ。役に没頭しているのかなと思っていたけどそんなことはなくて、だからこそ「集中力がすごい」と言われるんだなと感じた。

好きな点、もう1つがカメラワーク。また先程のシーンで続きになるけども、階段を降りるときに蝉の背中を追っていたカメラが、彼の表情を映し出す視点に切り替わるところめっちゃよくないすか?? 好きだわ~薄暗くてちょっと表情よく見えないのが残念だけどそれがいいんだなきっと。。顔を拭う仕草たまらん。あと血まみれになったお洋服を洗っている蝉の顔もうちょっと近くで見たい。。オーディオコメンタリーで脚本の青島さんが「こんなきれいな顔した山田くんの顔に血しぶきをかけるって映画監督冥利に尽きるでしょ」と話されていてものすごく頷いてしまった。監督ひどい!ってファンの人は思うんだろうなとも話されていたけれど、私は「こういうの見たかった!!!!」派だったんで全く問題なかったし逆に喜んだカットでした。ごちそうさまでした。

そうカメラワークの話ね。

「あっそこワンカットなんだ!」という驚きが楽しい。ファミレスで斗真くん演じる鈴木が、菜々緒さん演じる比与子と仲間たちに追われて、廊下を走り非常口に出て階段を下りていくところ(そのあたりの詳しい解説はオーディオコメンタリーでも言及されている)が、疾走感があって好き。蝉のお仕事シーンも編集されてるけど撮影はワンカットってことで、そこについては前述の通り。ワンカットでいけるなと思わせたやまだくんの身体能力に乾杯。最高のシーンです。

いくつかある階段でのカメラワークも好きだし、全体を通して登場人物の視点と思われるカットが入っているのが好きだなと。冒頭のシーンで暴走する車の運転手の視点であったり、ラストの決闘シーンでは亡霊の岩西の視点であったり。どんな想いで岩西はあの決闘を見守っているんだろうと思うと。。

 あと蝉が鯨のところに1度行って、岩西の事務所に戻ってくるところ。最初ランプが画面右にあるのが蝉が入ってくるのに合わせて移動していくんだーなんでそこにランプを入れたのかはわからないけど好きなカット! 蝉が去っていくときにカメラが引きになって物寂しさが残る感じもめちゃくちゃ好き。それにしても蝉の歩き方すごい特徴的でいいよね、歩き方から芝居するってやり方は本当に役が入ってるなと思うし、暗殺教室のときもそうだ、やまだくんすごいなと実感するポイント。鈴木斗真の情けない走りとリアクションもすごい!

なんか美術とかカメラワークとか言って結局蝉のことばっかりだーー仕方ねえー山田涼介の演じる蝉が素晴らしいんだーーーーー!ブルーレイ買ってよかった!!

岩西とのやりとりは本当に素敵だ。一度ケンカをする場面で、机にあったボトルを蝉が蹴とばしたあと、帽子を一緒に飛ばしてしまったからだろうか、黙ったまま申し訳なさそうな目をしているのが印象的だった。やっちまった……って顔。謝ることもできないでいるところへ雇い主発言。岩西のことを相棒として大事に思ってるのが感じ取れる場面。そのあと電話ですぐ許しちゃうし。許すのかよ!と思って。笑

蝉の存在感はあの眩しい黄色のシャツからもバシバシ感じられて、あの色はなんだか自分の存在を主張している風にも見える。蝉にとって「生」を感じる色なのかな? あの服がエレベーターの奥から現れた瞬間震えたもんね。ガチってことだな、のセリフは、最初に事務所を訪れたときの「殺す殺されるっていうのはガチな関係じゃねーのかよ。あんな奴ら殺したって面白くも何ともねーんだよ」の伏線なんだろう。

耳鳴りを止めるためにナイフを振るい、耳を切り落とすことによってそれが止まったことでナイフはいらなくなった。縛られているものから解放されて生身でぶつかっていく姿。鯨との会話では今までの空気は何だったのかというくらい楽しそうに笑っている。すごくいい顔で。

「俺の吐く泡が見えるか? 俺にはあんたの吐く泡が見えてるぜ」は、殺す殺される、ガチな闘いで生を実感しているから出てきた言葉かと見ていて思うけど、泡=生きてる証拠なのか、死ぬ前に見せるものなのか、……あんまりこの辺は突き詰めて考えられてないから、何かに行きついたら書きたい。

 

私の好きな劇団の主宰さんが、以前ラジオでこんなことを話していた。

俳優として、自分の仕事が成功した、というのはどんな時だと思う? 俺は、一度仕事をした相手からもう一度一緒にやりたいとオファーをもらった時だと思うんだよ。一度やってみて、それが素晴らしかったから、あなたともう一度仕事がしたいという気持ちで声を掛けてもらえる。

斗真くんが滝本監督とタッグを組むのは二度目だということで、この言葉を思い出した。やまだくんに対する滝本監督の評価を聞いていると、こうした『成功』にもつながっていくことが予感されて、彼の将来がとても楽しみになる。

私はやまだくんが好きで、やっぱりやまだくんが出ているから観に行くし、やまだくんが演じている蝉だからこそ、という部分がある。贔屓目に見てしまうというか。そこが最初に劇場で見たときの感想「蝉はすごくよかった」に通じていて、これからもきっと「やまだ、いい芝居してたなあ!」なんて言葉を本気で思いながら、少し盲目的に言い続けるのだと思う。

そこに一石を投じてくれるのが、監督さんやプロデューサーさん、共演している役者さん、彼と共に仕事をする方たちの言葉である。山田涼介というひとりの人間に対して、様々な言葉を投げかけてくれる方たちの存在。そういった方々に評価してもらえてこその仕事なんだと感じることが多くなった。ファンにとって最高でも、他の人にとってイマイチってのは色々な場面で感じるけど、新人賞を受賞したりすることで「ファン目線に立たなくても彼は素晴らしい」と評価を得ているのって誇れることだなと思う。やっぱりイイネ!と思うのはファンとか好き嫌い関係なくて、それを超越してこそ「良い物」なんじゃないかと思うから。

さて、長く取り留めもない感想になってしまったけれども。

最後に本編映像収録のオーディオコメンタリーより、やまだくんについてのコメントを拾って抜粋した上で引用させていただく。コメンタリーに参加されているのは生田斗真くん、監督の滝本さん、脚本の青島さん。たくさんお褒めの言葉をいただいてるのでぜひこちらも全部聴いてほしい。 

生田「どうですか青島さん、山田くんは」
青島「原作とまるで違う、監督と相談してシナリオがそういうキャラクターになってるんですが、こういう殺し屋がいるっていうのが不思議なリアルさであって、山田くんでよかったなという気はしますけどね」
監督「いやもう僕は本当によく色んな場で言いましたけど、最高の映画で最大の発見をしたというか。アクションはね、動きはたぶん色々やってるから心配してなかったんですけど、俳優としてすごく力のある……」
青島「淋しさみたいなものが、何もそういう台詞は一つもないんだけども、山田くんがやってくれてそれが出てますよね」
監督「うん。なんか哀しみ、っていうのかなあ」
青島「それだけで何故彼はナイフ使いの殺し屋になったのかっていう過去を説明しなくて済んでる気はしますね。原作にはないんですけど、蝉は耳鳴りに悩んでるっていうのはキャラクター的に足していて。それが最後の行為までいくんですけど、その辺が本当にうまくいったな、俳優さんに助けられたなという気はしますよね。役をガーッと膨らませてもらった感じはしますね」